虫の息

おれは陽気なカブトムシ

五飛…教えてくれ…

 

生活に余裕があって、貯金も十分にあり、仕事が楽しかったらどういう家庭を築いていたのだろうか。

 

きっと今頃マンションをローンで買ったり、田舎暮らしなら一軒家を買っていると思う。子供はおそらく1人。現在は2人だが、きちんと生活を考えている人間は子供を容易に作らない。

 

車はBMW。中層富裕民が好む外車だから。たぶん趣味でジャズを聴き、家には5.1chのオーディオとでかいテレビがある。愛犬はグレイハウンドやボルゾイ、またはジャックラッセルテリア。休日には海岸で犬と走り、子供とカフェで昼食をとる。食にはやたら詳しく、店員にワインの味を語る。

 

中層富裕民が大嫌いなので、こういった生活が理想だとは思わない。

正直言って母方の家族がまさにこれだった。祖父は大企業の副部長、叔父はアメリカで働いていたのでいつも海外産のおもちゃやお菓子をお土産に買ってきてくれていた。

 

リビングには革張りのソファ、何の鉱物で出来ているのかわからないテーブル、その部屋にはいつも緩やかにクラシックが流れていた。

わけのわからないサプリメントを毎日飲まされ、週に2回は教会で賛美歌を歌っていた。

 

親族の集いでは高そうな酒を嗜むおばさん、麻雀で盛り上がっている男たち、祖父がカラオケの機械で歌い続けていたのを憶えている。

 

散々甘やかされて育ったおれは何についても努力することができず、“わからない”“できない”で済まされていた。菓子も好きなだけ食べていたので5歳になるころにはほとんどが虫歯だった。

 

坊ちゃん刈りでかわいいだけが取り柄だったおれは、何もできずに燃焼することさえ忘れてしまった愚かな父親となった。真っすぐに生きることができず、社会に逆らうこともできず、ただただ低きに流されてここまで来てしまった。

 

あと3,40年労働した結果、求めるものはやはり緩やかな死なのだろうか。