虫の息

おれは陽気なカブトムシ

いつか帰るところ

戸建ての件は、本気で諦めることになった。

 

“ブラックでも建てられる”と言う住宅会社は、ローンをまとめることができるよ、軽減措置があるよという意味合いのことを謳っているだけである。

低収入で奨学金を滞納していて様々な履歴があるドブラックについては何の対処もできない。

 

今年の2月頃、新人であろう営業マンが昆虫ハウスに訪れた。千葉出身で雪に慣れないと凍えながら話す青年は、東北へ飛ばされたために妻と子どもを幕張に置いてきてしまったと悲しげに語った。

 

「家なんか建てられないよ、おれブラックだから」と伝えると、それでも頑張りますと言う。

どうやっておれみたいなクズをカモろうとしているのかと思っていたら、案の定身内名義でリバースモーゲージを組まないかとか、今のローンを低金利の銀行ローンでまとめないかとか、想像に容易い言葉をつらつらと並べてきた。ローンなんか奨学金以外無い。

 

30分くらいおれと嫁を取り巻く最悪な親族関係を話して、諦めてくれるかとおもいきや、それでもCICに情報開示を求めるとか、いろんな銀行で仮審査を通してみるだとか、ノルマで切羽詰まってんのかと思うような熱量で話を展開してきた。

 

実際住宅展示場に行ったこともあるし、いろんなことの話し合いをしてきたが、いつも初日に提案してきた方法以外の展開はなかった。

 

それから半年、とうとう営業が金融担当に投げた。金融担当から連絡が来ると言われてからさらに1ヶ月が経過した頃、お偉いさんっぽい人から電話が来て、降りないかという話を振られた。

 

あぁ、もう完全に無理だと確信した。金利は9月から元に戻る可能性が高いし、おれが自力で家を建てられる可能性は死んだ身内の遺産をもらうか宝くじで当たるくらいしかない。

そしてそれだけ頑張っていた担当が挫かれるほどおれの属性が最悪だったのだろうということも察した。

 

そこまで戸建てにこだわらなくても…と思う人に理由を説こう。おれの実家は横須賀と横浜に“あった”。両家とも身内の借金やら担保やらで売りさばかれてしまったのである。

おれ自身、実家がないことで苦労したことがたくさんあったので、どうしても子どもたちにいつか帰るところ(FF9ではない)を残してあげたかった。

 

たったそれだけのくだらない執着のために、みんなに期待を持たせてしまった。

妻も仕事を辞めたし、自分が出世することはないだろうし、身の丈に合わないことはしないほうがいいという良い教訓になった。

 

仮に家を建てられたとしても身内の二の舞いになりかねない。

ゴミはゴミらしく小さく生きて、小さく死んでいこうと思う。