虫の息

おれは陽気なカブトムシ

何者にもなれなかっ太

6歳くらいからずっと「公務員になれ」としか言われなかったので、夢というものがなかった。

 

公務員という仕事に1ミリも興味を持てず、高校生になるまでどういった職種なのか知らなかった。国家公務員や地方公務員など幅広い種類がある中で、親父の言う”公務員”とは結局なんのことだったのか今でもわかっていない。

 

きっと幼少期には何か夢や目標が大なり小なりあったと思うのだが、それを否定するような親にはなりたくないなと思う。

仮に「カブトムシになりたい」と言われても、立派なカブトムシになれよと言ってやろうと思う。宇宙飛行士だろうが総理大臣だろうが、なんだっていい。漠然としたものに対して想像力を膨らませるということ自体が成長の糧となるので、内容が実現するかどうかはそこまで重要ではないと思う。

 

大学に行く金がないので働けと言われてきたから、高校の半ばで勉強することをやめたのに、受験3ヶ月前になって「どうして勉強をしないんだ」と言われた。理解不能だった。もうすべてがどうでもよくなり、毎日酒に溺れて就職組の友人たちと遊びまくった。

 

”勉強”という言葉が嫌いで、本来は興味があるから学ぶ趣味のようなものだと思っている。”勉強”の意味するところはスタディでもラーニングでもなく、アリのように働くことがステータスであったこの国特有のスラングなんじゃないかと思う。(スタディだけど)

 

やりたいことがない人間が就職や給与体系に有利だからという理由だけで進学するのはどうかなとも思うが、あのとき最初から進学を応援してもらっていたら真面目に取り組んでいたのかもしれない。

 

物心がついてから夢も目標もやりたいこともなかった。運動は今でもできない。世界史と現代文以外興味がなかった。友達はなぜかいたが、集団生活が苦手だった。犬の糞尿や腐臭のする家が嫌いだった。父親を本気で殺そうとしたことがあった。人の気持ちを汲むことができない。上手く説明することができない。愛情のかけ方がわからない。人の話をすぐに理解することができない。

 

祖母が死んだ。家が売られた。土地もなくなった。犬が死んだ。一発殴ってやりたい相手もいずれ勝手に死ぬ。

おれにかけられてきたものが愛情だったのか、憎しみだったのか、教えてくれる存在は誰もいなくなった。