虫の息

おれは陽気なカブトムシ

おちごと…おちごと…

 

 転職して1か月半が経過した。

 

 意外とOJTがしっかりしていて、徐々に内容は把握してきている。管理事務なので現場を見に行ったり、給与を計算したりと業務はたくさんあるが、人生で初めて楽しいというかやり甲斐を感じている。

 

 給与はそれなりに高く、残業もサービスではないので頑張れば手取りで40程度は稼げると思う。ただ給与の高さは業務の過酷さでもあり、呼ばれたら行かなければならないし、連休中でも普通に電話が来るらしい。

 

 内容を簡潔に言うと、色んな能力を持ったおじちゃんたちが怪我や無茶をしないように見守りつつ金を運んでもらうという、ストラテジーとチェスの間のようなことをしている(?)。

 意味不明かもしれないが、上司が”ストラテジーとチェスの間のようなものです”というのでそのまま引用させてもらった。おれもよくわからない。

 

 毎日おぞましい量の電話応対や書類作成やデータ入力があり、夕方になるとウェブカメラ越しにおじちゃんたちとしゃべっている。同じ案件を担当しているお姉さんはセクハラの嵐を受けていて、もはや会話の内容が田舎のスナックと何ら変わりない。しかし本人は全く気にしていないようで、おじちゃんたち相手には一線を画しているのだろうなと逆に尊敬している。

 

 昔から思っているが、生活が仕事主体になってしまうと、どうしても人生が霞む。遊ぶために稼ぐのだから、このまま仕事をしていってお金を使う時間が消滅してしまうようであれば、おれがここで長く働く理由も同時に消えてしまうだろう。

 ただ、良くしてくれた社長に恩を返し、豊かな生活をするためにはこのまま上に昇ることを視野に入れてもいいのかもしれない。身内補正もあるし。

 

 おれは7年勤めた田舎法人から突然引き抜かれて突然入職させられたわけだが、身内の会社という実感は無く、同僚はその事情を知っているのだろうが、嫌味というか、嫌悪感を出してくることは一瞬も無い。

 そもそも8年も東北に住んでいて初めて会った親戚の叔父さんが社長なのだから、おれとしても社長は叔父ではなく、ただの社長という認識のままなのである。

 

 たまにおれがいる営業所に社長が顔を出しに来ることもあるが、”おつかれさまです”の一言で片付く。個人的に会いに行くことも無く、奨学金をすべて払ってくれた優しい叔父さんという感覚しかない。

 

 社長がなにゆえ一度も会ったことのない姪っ子の旦那に異常といっても過言ではないほどの優しさをかけるのか?最近になって入社2か月足らずの自分にやたら仕事が降ってくるようになったし、この会社で何が待ち受けているのか、おれは常々恐ろしくてならない。