虫の息

おれは陽気なカブトムシ

ゆるキャン◇

 

幼い頃からキャンプに行っていた。

 

夏の神奈川は暑く、子供の背丈からすると道路のおよそ3分の1が蜃気楼で揺らいでいた。裸足で砂浜を歩くと火傷を負うので、ビーチサンダルは波打ち際の砂が黒くなっているギリギリの部分に置いていた。夢中になっている間に潮が満ちてくると、サンダルや荷物が波にさらわれてしまうこともしばしばあった。

 

物心ついた頃から夏休みは長野や山梨といった避暑地に遊びに行っていた。伊豆や湘南方面に行くこともあったが、記憶を辿れば小学校低学年までは川でキャンプすることが多かった気がする。

 

道具は至ってシンプルに、タープとテント、バーベキューセット、2口コンロ程度だったと思う。思えば川で釣った魚を塩焼きにしたり、持ってきた食材を鉄串に刺して焼いたりと、中々充実した内容だったと思う。川で泳ぐ、虫を探す、写真を撮る。大人たちはビールを飲んでいた。

 

カナヅチのおれは浮き輪やシュノーケルを装備し、川魚を追っていた。姉はスイミングスクールで賞をもらうほど泳ぎが上手く、泳げないおれはいつも馬鹿にされていたが、危ないときは必ず助けに来てくれた。おれが滝壺に飲まれて動けなくなったときも一番に駆けつけてくれた。

 

川キャンプの良いところは、直火を使えることだ。大きい川石を円状に並べ、中央に焚き木を組めば飯盒を吊るすなり、バーベキューセットではできない調理ができる。上からファイアテーブルを置けば焼き肉もできるだろう。

遊びの部分では、流されてしまうためボール遊びなどは難しく、水面切りや虫探しなどがメインだった。球技が出来ないとなると遊びの幅は狭まるが、その中でどういった遊びを見出すかというのは幼児期の成長にとって良いものだと思う。

 

祖父が建てた家が火事で無くなり、実家は売られてしまったので写真などはほとんど残っていないが、廊下にずっと飾られていた父と姉が滝壺でピースサインをしている写真は今でも憶えている。

姉が実家に来たときこの写真について「楽しそうだね」と言ったら、「寒いのに無理やり泳がされて最悪だった」と言われた。うちで楽しかった思い出は探さなければ見つからないほどのものなのだろうか。

 

 

それは置いといて、キャンパーの血を引いているおれは自分の家族も毎年キャンプに連れて行っている。キャンプセットは嫁が小さい頃に使っていたものを使い回し、全てをbBに無理やり詰め込んで片道200kmくらいまでならどこへでも行く気持ちではある。気持ちというのは子どもたちが幼いので不慣れなところには行けないという意味で、結局毎年同じキャンプ場に行くしかないのが現状だ。

 

慣れたキャンプ場と言っても子どもたちの危険は常にあるわけで、一番大変なのは火起こしや調理中に包丁やコンロに近づかれること。長男の様子を見る限り、4,5歳になるまで“自由に冒険してごらん”というのは出来ないと思う。

 

長男はおれと遊びたいし自分でいろいろやりたいわけだが、次男の面倒を見なければならないジレンマで後半は狂ったようになってしまう。いきなり地面を掘り始めたり、テントに水鉄砲を乱射したり、見えないところでお菓子を食べていたり、かまって欲しさでいよいよ手がつけられなくなる。

食育的な目的で、みんなでハンバーグを作っても食べなかったり、朝食で気に入らないものがあれば眠い、お腹が痛いと言って逃げる。

 

今回は絶対に叱らないぞというポリシーを持ってキャンプに行ったが、帰りの運転中に運転席へボールを投げてきたり、やめてと言ったことを全く聞かなくなってしまったので路駐して叱りつけた。「みんなの命が乗っている」「ブレーキの間にボールが入ったらみんな死ぬんだぞ」と具体的な危険性を伝えた。

おれも2日間耐えてイライラの限界だったこともあるが、言いすぎたと反省している。そのあとすぐ「ごめん」と一言謝り、その後はしりとりをして楽しく帰ることができた。

 

“叱られムード”から脱却することが以前までできなかったので、これは父親として成長できた部分ではないかと思う。実際下の子が歩くようになってから制止するよう頼んだり、○○を取ってほしいと頼むことが増えた。甘えられる余裕を持ち、楽しいキャンプの時間をみんなで作り上げることができたらいいなと思っている。

 

 

<キャンプスタイルについて>

テント、タープ(蚊帳)、ピクニックテーブル、調理用テーブル、バーベキューセット、キャンプチェア、サバイバルナイフ、他はエアマットや調理器具などで大体トランクが埋まる。

 

木々が並ぶキャンプ場を選ぶことが多いので、虫のつかない松などの木があればハンモックもいいかなと思う。欲を言えばオシャレなテーブル、焚き火が好きなのでファイアグリルが欲しい。本当は瓶に蝋を入れてキャンドルを作ったり、木を集めて工作がしたいのだが、下の子が3,4歳になるまでは難しいと思う。

 

一軒家を持ったらキャンプ用品を家具代わりにしたり、遊べるような空間を作りたいなと思う。“変なオシャレをするくらいならキャンプに行けよ”と思ってしまう自分の性格が邪魔をするが。