虫の息

おれは陽気なカブトムシ

神奈川レポート

 

 夏休み中、姉が住むマンションへ遊びにいった。およそ10年ぶりに会う実母との再会を果たし、母には泣くほど喜ばれた。

 初めて会う姪っ子三姉妹とうちの子供が遊んでいる和やかな風景を見て、おれたちも自然と微笑んでいた。

 

【8/13】

 朝7時に宮城を出発してから昼すぎまでほぼぶっ続けで運転していたので、初日から遊ぶ元気はあまりなかった。みんなで家族写真を撮り、母の還暦を祝い、夕飯とケーキを食べたら、ずっとはしゃいでいた子どもたちは気づいたら寝てしまっていた。

 

 すでに時刻は21時を回り、本当は姉宅で酒でもあおりたい気分だったが、さすがに総勢10名が泊まれるスペースはないので、川崎市付近のホテルに2泊することにした。しかしこのホテル、あとからレビューを見て気づいたが、横浜市内でも有数の悪名高い施設だった。

 

レビューでは

・皮膚病になった

・ベッドの下にベッドが入っていた(?w

・日本で一番汚いと思う

・おれだから耐えられた

・生まれ変わったら絶対に泊まらない

など、かなりの酷評である。

 実際に入ってみた感想を入り口から順番に伝えたい。

 

  • フロント

 ぱっと見の印象はそこらへんのビジホと変わらない。が、受付のお前…日本は初めてか…?タイか中国かフィリピンかアラブ系かというところで、イマイチ日本語が通用している様子がない。

 なんとなくタブレットを見せられ、なんとなく記名し、金額だけは予約サイトと照らし合わせてから払った。立体駐車場の使い方がわからないようで、車庫入れまでに15分もかかった。

 

  • エレベーター

 「一晩で35万か…これでおれも大社長だな!」と何かの賭博で勝ったのであろう酔っ払ったおっさんがエレベーターに乗り込む。怖いので同乗はしなかった。

 だれもいないことを確認してからエレベーターに乗り込む。ギギギ…と音を出しながら高速で上昇するエレベーター。9階フロアに到着すると、タバコとゲロと香水が混ざったような臭いがした。

 

  • 部屋

 なんというか既視感のある構造で、昔行った古い福島のラブホテルを思い出した。洗っているのかいないのかわからないスリッパを履き、ホコリだらけのテーブルに荷物を置いた。

 ベッドサイドにキャスター付きのテーブルがあったので動かそうとすると、キャスター部分からひっくり返った。なんとこのテーブル、テーブルではなく壊れた椅子だった。

 

  • バスルーム

 ここまでくるともはや面白い。トイレはトイレ本体とペーパーホルダーの距離がありすぎて少し立たないと手が届かない。天井と壁はカビだらけで、変な臭いがする。

 嫁には言わなかったがトイレと浴槽の排水が繋がっているようで、広めの排水口からはトイレットペーパーが見えていた。ちなみにこのトイレットペーパーはおれがウンコをする以前から見えていたものである。

 お湯の調整が難しい。少しシャワーのお湯をひねっただけなのに指先をやけどしてしまった。とくせい:こんじょうではない。

 

  • 部屋再び

 隣の部屋から喘ぎ声なのかゲロを吐いているのかわからない女の声が聞こえてくる。キメセクかなと思ったが、男の声は一切せず、しばらくしたら女のせせり泣くような声だけが響いていた。

 25時頃、廊下で明らかにゲロを吐いている声が聞こえてきた。聞き耳を立てると、女性3,4人が酔い潰れた友達を介護しているようだった。

 おそるべし鶴見。港北区を超える治安の悪さである。誰も部屋に入ってこないよう、厳重に鍵をかけてから眠りについた。

 

 

【8/14】

 翌日、当初から予定していた横須賀のモンハンラリーに参加した。各地に点在する足跡をスマホで写し、ARのモンスターを集めようという企画である。一瞬だけARを使ってみたが、あまりにもしょぼいのでバルーン巡りに予定を変更した。

 

 コースカ(旧ダイエー)で姉家族と待ち合わせをしていた。なんとコースカにはセルレギオスがいるらしい。姉・嫁・母・次男・姪次女組と、おれ・義兄・長男・姪三女組に分かれて行動を開始した。

 セルレギオス探そうぜ!となってから2分くらいで正面入り口付近にセルレギオスを発見。意外と小さい。最小金冠か?足元にタル爆を置かれまくっていることに悪意を感じた。

 シャドーボクシングのポーズで記念撮影を済ませたら、電車で横須賀中央駅に向かった。

 

 長男は物心ついてから初めて電車に乗る。汐入から横須賀中央までは京急線の各駅停車で一本だが、それでもややびびった様子で運転席を見ていた。

 横須賀中央に到着すると、隣接しているモアーズシティでラージャンを探すことにした。とくにリーク情報もなく、ネットで場所を探していると、なんとなくイタリアっぽい石畳に立っているラージャンの画像を見つけた。改装されてなければ、この石畳は最上階のレストランフロアである。

 

 「これ最上階じゃん!」という気づきには、少年に戻ったような感動があった。エスカレーターで最上階まで行くと、長男くらいの年齢の男の子と、祖父母ではなく両親であろう晩婚夫婦がいた。隣にはバンギャ上がりみたいなすごい髪色のネエチャンがいて、中々にカオスな空間ができあがっていた。こちらも若い男2人と幼児2人なので十分に怪しい。

 

 エスカレーターの脇に立つような形で毛むくじゃらのラージャン、毛むくラージャンがそびえ立っていた。本当にバルーンなのかと思わせるような造形で、よだれまでが完璧に再現されていた。長男が食われるシーンを撮影し、とても満足した。

 ここまででかなり歩いたのだが、どうしてもジンオウガに会いたかったので、横須賀市役所へ向かった。

 

 中央通りは、ゲーセンと焼鳥屋以外記憶にある店がほとんどなかった。モンハンラリーということでけっこう人がいるのではないかと懸念していたが、わりとスカスカでよかった(横スカw)。

 最初にオトモガルク搭乗キャンペーンに参加した。義兄が一番ノリノリで、二人でふざけながら写真を撮りまくった。ガルクだけ作り込みが異常で、ほぼゲーム画面を見ているような感覚だった。

 

 いよいよジンオウガとの対面である。シャンデリアが照らすホールの中、ホールの半分を占領する大きさのジンオウガが見える。いやデカい。想像の1.5倍はある。

 「これハンマーのかち上げで頭届かなくね?」「こんなの目の前に現れたら手も足も出ないよねえ」「ハンターすげえよ…」と、気づけば義兄と妄想の世界で会話をしていた。

 ジンオウガは、おれがモンハンシリーズの中で最も好きなモンスである。喜びのあまりジェスチャー“ボックスダンス”を踊っていたら、オタクくんたちが早くしろよみたいな目でこちらを睨んでいた。※夢中になりすぎて長蛇の列ができていたことに気づかなかった。

 

 ジンオウガの横にあった飛び出すラージャン(トリックバルーン)で記念撮影をし、姉から「早く帰ってこい」とキレ気味の電話が入ったので、コースカへ戻ることとなった。

 

 コースカで昼食を済ますと、再び姉宅へ戻った。本当はみなとみらいにも三浦方面にも行きたかったが、何よりもう二度と会えないかもしれない母との時間を過ごしたかった。

 

 昨日はあまり喋らなかった姪っ子たちも、だんだん打ち解けてきたらしい。長女(15)次女(9)三女(2)という年齢差で、次女と長男、次男と三女という感じで遊んでいた。

 意外だったのが、嫁と長女だった。サブカルチャーに詳しい嫁と、Vtuberガチ勢みたいになってきている長女は、思いのほか馬が合ったらしい。絵の描き方を教わっている姿は、姉妹のようだった。

 

 夕飯に何を食べたのか忘れてしまった。それだけ楽しい時間を過ごしたということだと思う。三女を膝に乗せてふざけていると、明日には帰るという寂しさで胸がいっぱいになった。どうしても帰らないとゴネる長男を無理やり引き離すと、逃げるように玄関を出た。姉は涙目になり、三女は次男の名前を叫んでいた。

 

 ホテルに戻る途中、生麦へ続く湾岸道路を走った。左にみなとみらい、右に川崎の工業地帯が見える。長男が泣いている声が聞こえるので振り向くと、次女からもらったポケモンの絵を見ていた。こういう経験も、成長に繋がるのだろうなと思う。

 

 汚いホテルに到着すると、何もしないで泥のように眠った。良い想い出も悪い想い出も、全て忘れたかった。明日の朝には全部忘れているだろうか。

 

【8/15】

 朝7時頃、全員がほぼ同時に起きた。身支度をし、汚いホテルにさよならを告げた。本当はシーパラに行きたかったが、このホテルがちょうど綱島街道に面していたため、そのまま綱島に行った。

 

 何度も言うが綱島にはたくさんの思い出がある(以下略)。

 ラウワンの駐車場が無料のため、しばらく車を置いておくことにした。駅の方に向かい、河川敷を歩き、川にいるドジョウやサワガニを眺めていると、頭上を東横線が走る。その轟音に長男も次男も耳を塞いでいた。

 

 行きつけだった商店系列の家系が、こんなときに限って改装してやがった。ふざきんな11!!!仕方がないのでおれらが行ったことのない製麺所のようなところで昼食をとることにした。

 一口食べても、スープを飲んでも、コレジャナイ感がすごい。麺もちゃんと作られていて、スープもよくわからない深い味がした。おれは化学調味料を使った雑でパワーのある感じが欲しかったんだよ。完全に萎えて、ラウワンでイニDをやりまくった。

 菊名まで戻るのも馬鹿らしいので、東京の真ん中を突っ切ることにした。

 

 「荏原」とかいう湾岸ミッドナイトでしか聞いたことのないICから常磐道に抜ける作戦を実行した。おれが乗るダイハツ ネイキッドは軽自動車であることを考慮しても瞬間的な加速が苦手であり、どちらかというとオフロードを走る車なので、高速は向いていない。ATなのに少々の勾配でも2速3速を駆使しなければ登らないレベルである。

 首都高や湾岸線は、ジャンクションが多いために曲がりながら登っていく道が多い。仕方なく仙台ナンバーのヤマザキパントラックに張り付き、後ろからビュンビュン来る高級車をやり過ごした。

 

 常磐道からはあっという間に宮城へ入り、疲れたので多賀城ICから降りると、そのままゆっくりと帰路へついた。

 

 

【8/16】

 神奈川へ帰ろうと本気で思った。姉や嫁と相談し、帰る算段まで立てたところで義祖父から連絡が来た。

 「今の仕事じゃ給料も低いと思うし、うちの会社が新規の営業所を立ち上げたから、働いてみないか」今さら強めのカードを切ってくるんじゃないよ。しかしおれも負けず、神奈川へ帰ることを考えていることを話してみる。

 

 「横浜に営業所があるから、その気になれば帰れるよ」 …もう魔法カードじゃん。

 「今週末に社長(叔父)と話してくれ」 …展開早いな!

 

 こうしておれは転職と同時に神奈川へ帰るビジョンを獲得したのである。今週末(9/1現在)マジで社長と話してくるので、報告を待っていてほしい。

 

 次回、「カイ=ロス、死す」お楽しみに。